本発表では,日本語の三種類の「V-合う」構文の特徴がどのように説明されるかを考察した.まず,Vの項位置が空所となる直接相互文については,「合う」はVの内項を吸収する役割を持つ接辞であるというIshii(1989)の分析を支持する二つの統語的証拠を示した.次に,Vの項位置内の所有者位置が空所となる間接相互文の場合にも,それがフランス語などのExternal Possessor Constructionと同様の性質を示すことから,「合う」は直接相互文の場合と同じ接辞であり,所有者位置にあるように見える空所は実はVの項の一つとして同定されるという分析をした.最後に,空所を含まない競争相互文における「合う」は,上述の「合う」とは異なり,θ主語と補文を選択する動詞であると分析した.これら二種類の「合う」を仮定する根拠としては,それぞれの「合う」の使用され始めた時期が異なるという歴史的データ等を挙げた.