完全pro脱落言語としての日本語の分析
外池 滋生(青山学院大学)
日本語は主語も目的語も文脈が許せば脱落させることができる言語であることはよく知られており,その意味で完全pro脱落言語(full pro-drop language)ということができる.しかしその扱いに関して,主語に加えて,目的語など(すなわち項)には「彼」「それ」などの「代名詞」を用いることもできるが,ゼロ代名詞を用いることもできるとするのが一般的である.本発表では,1)に示すように日本語は項の位置は常にゼロ代名詞が占める言語で,項と目される「太郎が」や「花子に」は付加部(adjunct)としてゼロ代名詞(PRO,pro)を束縛しているということを主張する.
(1) [太郎が[花子に[PRO pro 会った]]]
その根拠として,明示的な主語を持たない文がその主語の恣意的PROの解釈を許す事実と,(主語もそうであるが)補部と目される要素が常に否定の作用域外にある解釈を受けるという事実を提示する.その上でそのような日本語の文構造の分析が持つ(例えばScramblingの分析などに関係する)理論的意味を考察する.