本稿の目的は、クメール語の小辞の一つであるphɔɔŋ について、「同時」「理由」「譲歩」などの文脈で見られる「並立」表現と、「驚き」「強いお願い」などの文脈で見られる「強調」表現との関連性を説明することである。
前提として特定の「並立」要素を文脈内に要求するトリガーである前者が基本用法と捉えられ、そこから文法化現象の一種である「意味的縮小(semantic reduction)」によって後者の用法が拡張したと考えられることを示した。基本用法で見られる (1) 「アクセス可能な特定の並立要素を文脈内に義務的に要求し」、(2) 「当該の要素に焦点を当てる」という両者のうち、(1) が意味的縮小によって欠落し、(2) のみが前景化して生じたのが拡張用法であることを例証した。また、全ての用例が基本用法と拡張用法とに明確に区別できるものではなく、両用法は連続体をなしていることも述べた。