本発表では、これまで構造的分析が有力とされてきた逆行束縛に対して、新たに意味の面から光を当てることにより使役心理動詞の意味構造を同定し、この動詞群の諸特性はその意味構造の帰結として統一的に導き出せることを示した。具体的には、Bando and Matsumura 2001 などにより指摘された逆行束縛に関する最小対の詳細な意味的考察から、使役心理動詞は、経験者の内的心理世界を創り出す世界創造述語であるという新たな観察を提示し、この観察を捉えるため、PERCEIVE と呼ぶ意味述語がhyperclause としてLF のレベルで使役心理動詞構文と結合すると提案した。この提案によれば、逆行束縛をはじめ、弱交差効果の消失、使役主語と表層目的語間の作用域の多義性、照応形の非局所的振る舞いといったこの動詞群の特異な性質はすべて、その意味構造がhyperclause を持つことの自然な帰結として説明される。