日本語の主語尊敬構文「先生がお帰りになった(尊敬語)」と目的語尊敬構文「先生をお助けした(謙譲語)」には、(1)どちらの構文でも接頭辞「お~」が動詞に付加される、(2)動詞が接辞-i/-φを伴い、主語尊敬構文の場合さらに「~に」が付加する、(3)これらの要素の後に主語尊敬構文では「なる」、目的語尊敬構文では「する」が後続する、という3つの顕著な特徴がある。本論文では新たな経験的証拠を提示して、敬語文に現れる「なる/する」は、「タカシが心配になる/タカシが心配する」に現れる「なる/する」と同様、いわゆる「軽動詞(light verb)」であると主張する。この主張を軸に敬語文の形態/統語構造を分析し、これらの3点の特徴がなぜ一つのまとまりとして必要とされるのかという疑問に答え、それぞれの要素が敬語文の意味機能の実現と統語構造の構築のために貢献するメカニズムを明らかにする。