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研究資料としての同時通訳データ

企画・司会 船山仲他(神戸市外国語大学)

 同時通訳には通常の言語活動には見られない特殊な側面があるが、同時通訳を根本で支えている言語能力は一般的なものと本質的に異なるとは考えられない。そこで、通常表面化しない言語理解の特性を、同時通訳の記録を分析することによって実証的に明らかにできる可能性がある。つまり、話し手の頭の中の活動について、他の言語活動の観察からは得られない客観的証拠を得る可能性がある。本ワークショップでは、同時通訳そのものに関する理論的研究を踏まえながら、特に、発話のオンライン理解、ワーキングメモリに関して同時通訳が何を明らかにしてくれるか、現時点での研究成果と将来の可能性を論じる。

また、同時通訳のシンクロ表記の表現力と限界、言語理解研究の生データとして同時通訳記録を使用する場合の注意点についてもまとめる。

同時通訳における想定の構築

船山仲他(神戸市外国語大学)

 同時通訳データの分析に基づいて、言語理解の展開を跡づける。関連性理論の用語を使うならば、入力語彙形式がエンコードしている概念的情報と手続き的情報が通訳者(原発言の聞き手)の頭の中でどのような想定(命題)を構築したり操作したりしているかについて、同時通訳の現れ方を見ることによってオンライン的に検証できることを示す。原発言に生起した単一の語句が、表意を構成する概念的情報を含むと同時にある想定を操作する手続き的情報も含んでいる例や、話の枠組みを規定する想定が通訳者の頭の中でどの程度の長さ保持されているかの例などが観察されている。

同時通訳理論研究の動向

水野 的(立教大学)

現在、同時通訳の理論的研究は主に言語学と認知科学の両面から行われている。発表では同時通訳の理論的研究の最新の状況を報告する。

言語学的研究では、Miriam Shlesinger (1995)の同時通訳における結束性の研究、Consorte (1999)による同時通訳におけるTheme の役割の研究、Macintosh(1985)によるKintsch and van Dijk の談話処理モデルの応用、Hatim and Mason(1997)のテキスト言語学やdiscourse analysis の通訳研究への応用などがある。Setton (1999)の研究は、関連性理論やAustin/ Searle の言語行為理論、Filmoreを援用し、Johnson-Laird のメンタルモデル理論やJust & Carpenter のワーキングメモリ理論を加味して「語用論的=認知的」同時通訳理論を展開している。

 認知科学的研究では、ワーキングメモリ理論を主な枠組みとして、同時通訳とdigit span (Daro & Fabbro, 1994; Chincotta & Underwood, 1998) 、同時通訳と即時自由想起immediate serial recall (Padilla et al. ,1995)、手話通訳との比較による音声的干渉の効果(Isham , 2000)、同時通訳における選択的注意とワーキングメモリ(Cowan, 2000/2001)などに見られる同時通訳の一般的な認知的制約を探る研究に加え、そうした認知的制約を超えるエキスパート行動としての同時通訳の研究(Ericsson, 2000/2001; Shlesinger, 2000; Liu, 2001)も進められている。最近認知科学の研究者が同時通訳の研究を始めていることに示されるように、同時通訳は認知科学研究者にとり魅力的な研究対象となりうる。

言語の情報処理を支えるワーキングメモリの働き

苧阪 満里子(大阪外国語大学)

ワーキングメモリはダイナミックなactive memory であり、人間の思考やこころの働き、対話や読解などの言語の情報処理には重要な役割を担っている。たとえば、読みの情報処理に関しては、読んだ内容を保持しつつ読みを進めるという並列処理が必要とされるが、このような場面では、ワーキングメモリの働きが必要とされる。

ワーキングメモリは、対話や読解などにおいて、必要な情報を一時的に活性化状態で保持することに加えて、並行して処理をおこなう脳のシステムである。なかでも、Baddeley (1986)のモデルによる中央実行系( central executive)は、注意の制御系とも呼ばれるように、人間のさまざまな情報処理を支える制御システムである。ここでは、言語の情報処理を支えるワーキングメモリの働きについて紹介したい。

そこで、言語的ワーキングメモリの資源を測定するリーディングスパンテスト(Reading Span Test, RST)の日本語版について紹介したい。また、RST を実施中の脳の神経基盤に関する研究報告についても言及したい。

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