比較文における尺度的捉え方について:「高低的捉え方」と「遠隔的捉え方」を中心として

澤田 治(早稲田大学大学院生)

 本発表では、比較文の尺度的捉え方に関して、以下の点を論証した。(A)比較文には、2つの比較対象に関して、尺度上で話し手による捉え方が(ⅰ)中立的な場合と(ⅱ)中立的でない場合の2つのパターンがあり、後者の場合、尺度上で、(a)低く捉えた場合、(b)高く捉えた場合という「高低性」の次元と、(c)近接的に捉えた場合、(d)遠隔的に捉えた場合、という「遠近性」の次元がある。(B)比較文には、尺度上での「高低的」捉え方と「遠近的」捉え方が融合(blend)したケースが存在する。融合的捉え方に対しては、「異次元融合の制約」と「融合的捉え方の優先性制約」の2つの制約が存在する。(C)尺度的捉え方には、程度副詞、係助詞「は」、尺度演算子「さえ」、百科事典的知識、構文的知識などが関与している。

 尺度性は認知や言語にとって最も基本的な概念のひとつであるが、複数の尺度的捉え方が融合することにより、さらに高度で複雑な認知が可能となっている。