チャモロ語、パラオ語、(上代)日本語のWH疑問文

外池 滋生(青山学院大学)

 上代日本語(の「か」による係り結び)と、チャモロ語、パラオ語には英語と同様の左方wh移動があり、動詞の形態におけるwh 一致があるとする主張(Watanabe(1998) 渡辺(2001)は維持しがたいことを示した。論点は以下のとおりである。チャモロ語、パラオ語のwh 疑問文の文頭の疑問要素はwh 移動によるものではなく、(1)に示すような自由関係節を主語とする述部で、全体は日本語の「マリアが買ったのは何か」のような述部疑問文であって、疑問要素が文頭に来るのは述部が先頭に来る(OVS)言語であるためである。wh一致と呼ばれる現象もKeenan and Comrie (1977)の関係詞化制約との関係で説明されるべき現象である。また述部疑問文分析は上代日本語にも当てはまり、野村(1993)の指摘する「…は …か …が…連体形」のパターンは(2)に示すように「…は …か」の部分が述語疑問文をなしていて、語順を除けばチャモロ語、パラオ語と同じで、それに「…が…連体形」の結びが連置されているものであるとして説明される。

(1)  [疑問要素述部 [主語自由関係節]] (2) [[主語…]は 疑問要素述部+か]