現代アイルランド語の分裂文と「名詞句文」

中村 千衛(京都大学大学院)

 本発表では現代アイルランド語について、先行研究で分裂文([コピュラ+名詞句+関係節])から派生したとされる文([名詞句+関係節]で成立する文で、仮に「名詞句文」と呼ぶ)が形式と情報構造に関して分裂文と異なる様相を呈することを示した。形式面では1. 代名詞が分裂文でコピュラに後続する名詞として生起可能な一方、「名詞句文」の文頭には生起不可能なこと、2. 関係節内部で前置詞句の一部となる名詞句が「名詞句文」の文頭に生起する一方、分裂文でコピュラに後続して現れないことの2点を挙げた。情報構造に関しては、分裂文が焦点+前提のタイプのみから成る一方、「名詞句文」は焦点+前提、前提+焦点、全文が焦点、焦点なしの4タイプから成ることを見た。次に、コピュラ文の性質から「名詞句文」の文頭にコピュラを介さないことを示し、分裂文と「名詞句文」の違いがコピュラの有無に関わることを主張した。