セデック語の不定詞の省略された主語

月田 尚美(愛知県立大学)

 セデック語には「不定詞」と呼べるような構造がある.この不定詞の主語は音形を持って現れることがない.概念上,不定詞の主語と思われるものは,本動詞の主語ではなく本動詞のA/S項と同一物指示と解釈されることを,本発表では明らかにした.第1節でセデック語に関する基本的情報を述べた後,第2節で「不定詞」を紹介した.不定詞は相/時制/法の表示などの点で本動詞より制限されている.その後,第3節で,不定詞の主語がどう解釈されるかを例文をあげながら見た.AVの文ではA/S項が同時に主語でもあるので,本動詞の主語が不定詞の主語の解釈に関与しているようにも見えるが,非AVの文を見ると,関与しているのが主語でなくA/S項であることがはっきりと分かる.第4節では,この制約を反映したセデック語の言語事実を2つ紹介した.どちらの場合も,使役動詞をうまく使うことで本動詞のA/S 項と不定詞の主語を一致させている.