フランス語の心理動詞は格とθ役割の観点から3種類に分類されるが,その1つに主題のθ役割を担う名詞句が主格主語として,経験者を担う名詞句が対格目的語として現れるもの(対格型心理動詞)がある.本発表では,対格型心理動詞が非対格動詞であるという先行研究の主張に反論し,独自の統語構造を持つことを主張した.この主張の根拠として、対格型心理動詞が非人称構文に生起不可能であることを指摘し,対格型心理動詞における経験者名詞句と主題名詞句はそれぞれVP指定部,vP指定部に基底生成される動詞であり,他の2種類の心理動詞とは異なる統語構造を持つと仮定すべきであることを主張した.
更に,この仮定を支持する現象としてen接語化などをあげ,本発表で仮定した統語構造がen接語化における3種類の心理動詞のふるまいの違いを正しく予測できることなどを示し,本発表の分析が妥当であることに更なる裏づけを与えた.