Sauerland & Elbourne 2002(以下、S&E)は、EPP素性はPFで照合されてもよいと主張し、その一例として、日本語の多重スクランブリング構文([NPに NPを NPが]の語順の文と[NPを NPに NPが]の語順の文)を取り上げ、そのスコープ解釈可能性の違いを分析している。しかし、本発表では、S&Eの提案する仮説では、実際には容認不可能なスコープ解釈が派生されてしまうということを指摘した。さらに、スクランブリングがEPP素性照合のための移動であると仮定する限り、何らかの不具合が生じるということを論じ、日本語のスクランブリングを英語の繰り上げ構文と同様に分析するのは間違っているということを主張した。最後に日本語のスクランブリング構文のスコープ解釈可能性を説明するものとしては、Ueyama 1998で提案されている分析が最も有望であるということを示唆した。