フェーロー語には形態論的な格として主格・対格・与格・属格の4つがあるが、このうち普通名詞の属格は口語ではほぼ消失し、様々な前置詞句で置き換えられる傾向にあることが先行研究で指摘されている。一方で、個人名など一部の名詞類には従来の属格とは別の新しい属格形が発達しており、先行研究ではその存在の指摘はあっても名詞類の中での位置づけはあまり考えられていなかった。本発表ではフェーロー語の属格とそれに類する名詞類が (i) 所有関係を表わす連体詞として使用される場合、(ii) 属格と結びつくことのできる前置詞の目的語として使用される場合、という二つの機能的区分により、形態的二分化を示す傾向があることを指摘した。その上で、いわゆる名詞句階層に沿った名詞類の分類を行ない、属格以外の諸形の分布を合わせて検討することにより、伝統的な属格が衰退している領域と、それに代わる形の出現傾向が理解しやすくなることを示した。