上ソルブ語の動詞は,種々の接頭辞を付すことによって,その動詞そのものの意味を保ちつつ,行為の動作様態を細かく描写することができる.本発表では,その接頭辞のひとつであるna-について,再帰代名詞対格soを伴う場合(na- so派生動詞)の特徴について,特に意味と統語の面から考察し,以下の諸点を主張した.
(1) 接頭辞na- は,「意志的な行為の持続・積み重ね」という動作様態を指定する完了体化接辞である;
(2) na- so派生動詞は「十分に~して満足である・嫌である・…」といった意味を表す.これは「主語で表される行為者が動詞基部によって表される行為をこれ以上行いたくない」という事態を表すが,その判断は話し手に帰属する;
(3) 統語的には(もしあれば)もとの動詞の対格目的語が属格に変わる.これは,再帰代名詞対格soが(もとの)対格目的語のスロットを埋めてしまったことによって,対格で現れるべき目的語がそのスロットを失い,属格で現れていると考えられる.