シベ語の名詞接尾辞-niについて

木村 滋雄 (北海道大学大学院)

 シベ語の名詞接尾辞-niは一般に三人称の所属・所有を表す人称接尾辞とされてきたが,そのような解釈では,説明できない例も数多く存在する.本発表では,-ni以外の一・二人称の人称接尾辞がシベ語ではほとんど使用されていないこと,一人称または二人称の代名詞が「名詞+-ni」を修飾しており,-niが三人称を表すとは解釈できない例があることなど,従来の記述の問題点を指摘し,-niの用例を検討しなおす.結論としては,名詞接尾辞-niの用法は,(a)所有・所属の表示,(b)定の表示,(c)とりたての表示,(d)形容詞などの名詞化の四つに大別できることを主張する.

 また「名詞A + 名詞B-ni」という所有・所属関係を表す名詞句において,-niが名詞Bに義務的に付加されるかどうかは,名詞Aと名詞Bとの意味的な関係が,譲渡可能な所有関係であるのかどうかが関与していると見られることを示す.