チャック語は、バングラデシュ人民共和国・チッタゴン丘陵を中心として約2000 人の母語話者をもつ、チベット・ビルマ語派のルイ語群に属するとされる言語である。
本発表では、発表者がバングラデシュで収集した一次資料にもとづいて、チャック語にみられる数種の述部標識のうち平叙文における動詞述部標識である“heʔ” をとりあげ、その意味と用法を記述した。その結果、ある語が“heʔ” を述部標識としてとるならば、その語は動詞句としてふるまうことがわかった。さらに、おなじ語形でもあるときは動詞句であり、またあるときは名詞句である場合があり、そのふるまいのちがいが述部標識の選択に依存しているところから、チャック語においてある語が動詞句としてふるまうか名詞句としてふるまうかは、語彙ごとに指定されているのではなく、述部標識の選択によって決定されることがわかった。