対照の「は」を伴う全称数量詞を含む否定文の解釈の習得について

日本言語学会第129回大会(2004)口頭発表要旨

The Acquisition of Negative Sentences Containing a Universal Quantifier Marked by Contrastive Wa ‘Foc’

照沼 阿貴子(東京大学大学院)

大人の日本語母語話者は, 通常, (1)を(2)のような文脈では容認しない. しかし, 日本語を母語とする子供は容認する.

 (1) 太朗はみかんを全部は買わなかった.

 (2) みかんが3個ある. 太朗は3個とも買わなかった.

本発表では, なぜ子供は(1)の解釈の点で大人と異なるのかについて考察した.まず, 大人が(1)を(2)のような文脈で容認しないのは, (i)対照の「は」が誘発する含意 (contrastive implicature; CI)が文のall > not解釈を阻止するため, not > all解釈しか許されない, (ii)尺度の含意(scalar implicature; SI)が文の論理的解釈を阻止する, (iii)文の論理的解釈はCIによっても阻止される(一部の話者のみ), ことが原因であると述べた. そして, 子供が, 大人と異なり, (1)を(2)のような文脈で容認するのは, 子供の日本語の文法では, CIが(1)のall > not解釈は阻止するが, その論理的解釈は阻止しないこと, および, SIが計算されないこと,に起因すると指摘した.