本研究は現代日本語を対象とし,状態文の中でも(1a)のような与格主語構文とそれに対応する(1b)のような自動詞文との交替現象に焦点を当て,時間性の観点から分析を行う。
(1) a. 私には暗闇が怖い。 b. 暗闇は怖い。
状態の持続を表す「―ままだ」や時間副詞との共起現象を考察すると,(1b)のような対象の属性を示すと考えられていた自動詞文が,実際には対象の状態としては時間に位置付けられない場(判断主)における判断を示していることが分かる。本研究は,これが述語の語彙的に要求する「場(判断主)」が,意味的には含意されながらも統語的には背景化されたことによって生じたものであることを主張する。つまり,与格主語構文の述語は語彙的に「場(経験者・所有者・判断主)」と「対象」という二項を要求しており,自動詞用法での属性解釈は有題文であることなど,構文の性質から生じているものであることを示す。