本発表では、バンティック語(北スラウェシにおけるオーストロネシア語族の言語)におけるmalefactive verbと、それを形成する接頭辞{ka-}の機能について述べた。malefactive verbとは、被害を受ける事物を表す名詞を主語にとる動詞であり、「接頭辞{ka-}+語根+接尾辞{-AN}」という形をしている。同じく接頭辞{ka-}が付加した動詞は、「能力」あるいは「非意図(意図しない行為)」のどちらかの意味を表し本発表では「能力動詞」と呼ぶが、この種の動詞は態による変化を持つ。その態のうちPassive Voice1は、malefactive verbと同じ形態となるが、能力動詞とmalefactive verbは態の変化の有無や細かい統語的特徴に違いが見られ、意味の面でも異なるので区別する必要がある。しかし、接頭辞{ka-}が持つ「明白な意図の不在」の意味に注目すると、「能力」「非意図」と「被害、あるいは悪い影響」の間に意味的な関連が確認できる。