本発表では、台湾原住民であるサオ族のサオ語における一般否定辞aniとantuの意味上の違いについて、考察をおこなった。
aniは後続する文全体を否定するものであり、必ず文頭に用いられ、一般の否定、および、質問に対する否定の答えとして使用される。それに対して、antuは後続する名詞句、形容詞句、動詞句などを否定する否定辞であるため、文中のあらゆる場所におくことができることを示した。そして、それらの統語上のふるまいと関連して、aniとantuには使用における意味上の違いがみられる。つまり、一般的な否定文として用いるときは、形容詞述語文にantuのみが使用されることを除いては、aniとantuの互換性が認められる。しかし、意味的には、「他との対比」を強調したいときはantuを使用し、発話者の気持ち「したくない」をあらわすときはaniを使用する。また、aniはantuに比べて、事態に対する推測の意味合いが強いということも確認した。