アムドチベット語は中国国内のチベット語3大方言の1つである。本発表では、実地調査とテキスト調査に基づき、アムドチベット語・共和方言における、本動詞が文法化した助動詞taɲ/shoɲ(本動詞としての意味は「放つ」と「行く」の過去形)を用いた述語「動詞+taɲ」と「動詞+shoɲ」の機能を明らかにする。これらはともに、「完了」を明示するのに用いられるが、それぞれ後続する動詞や文全体の意味によって使い分けられている。
本発表では、主に、260個の動詞がどちらの助動詞を選択するかを調査し、その結果から助動詞taɲ/shoɲの使い分けの基準を動詞レベルと文レベルに分けて考察した。そして、「動詞+taɲ」が「発話者あるいは行為者の領域に近づく方向性をもつ、または、その領域にある」事態を、「動詞+shoɲ」が「発話者あるいは行為者の領域から遠ざかる方向性をもつ、または、その領域にない」事態を表すことを主張する。